国民投票法案のカラクリ
       改憲のための不公正・非民主的なしくみ

 埼玉憲法会議(平和憲法を守る埼玉共同センター) は、2月15日に埼玉教育会館で弁護士の青木努さんを講師に、国民投票法案についての学習会を開催しました。約70名が参加し、昨年の臨時国会から継続審議となっている与党案と民主党案のカラクリについて学習を深めました。

●国民投票法案の目的は憲法を変えること

講演する青木努弁護士  自民・公明両党の幹事長・国対委員長は2月14日、国民投票法案を5月3日の憲法記念日までに与党単独でも成立させると宣言しました。その日までに成立させるには、3月上旬には衆議院を通過させることが必要だと言われています。あと1ヵ月を切る非常に緊迫した情勢にあります。  よく「この国民投票法案が通っても、憲法改悪反対が国民投票で過半数をとればいい」と言う人がいます。  しかし、この国民投票法案が通れば、すでに憲法は改悪されたと考えた方がいいのです。なぜなら、この国民投票法案は憲法を変えることが目的で、変えた方がいいか、変えない方がいいかを問うような法律ではないということです。そのカラクリが、与党案にも民主党案にも隠されています。

●カラクリ1:「過半数」の要件と最低投票率

 憲法改正の承認は、与党案・民主党案ともに「有効投票の過半数」という最も低い基準を採用しています。しかも、最低投票率の定めもありません。そのため、国民の2割から3割といったごく少数の賛成しかないのに改憲が実現してしまう危険性があります。  しかし、憲法96条がわざわざ国民の「過半数」の賛成が必要であると規定し、憲法改正について、国民の意思を尊重することを極めて重く見ていることからして、過半数の意味は「有権者(投票権者)の過半数」、少なくとも「投票総数」を基準にすべきです。さらに、最低投票率を規定することは絶対に必要です。【注1】

●カラクリ2:資金力のある改憲派が圧倒的に有利な有料宣伝広告

 無料広告については、与党案も民主党案も当初案では、政党の会派議員数に比例した時間数と新聞紙面の大きさを決めることになっていました。つまり護憲派の共産党と社民党には、衆参の議席数から4.3%しか割り当てられないことになっていました。しかし、それが多くの批判の的になり、賛成の政党も反対の政党も同一の時間数と新聞紙面の大きさに修正されました。このことは、一定の改善がなされました。  一番問題なのは、有料広告です。誰もが、国民投票日の一定期間前まで(14日前まで)は、有料で自由にテレビ・ラジオ・新聞広告ができることになっていますが、そうすると、経済団体や独占企業などがその資金力を背景に改憲賛成の大量のテレビ広告などを垂れ流すことは確実でしょう。他方、資金力のない一般国民にとって現実に可能な運動は、個人やグループで集会を開いたりビラを配ったりして、その考えを訴えていくことになりますから、宣伝力の差は明白です。これでは「カネの力で憲法を買える」ことになってしまいます。【注2】

●カラクリ3:公務員・教育者の運動に制限

 500万人にものぼる公務員と教育者には、「地位利用による国民投票運動を禁止」する重大な規制を設けています。当初案では、違反者に刑罰を加えることになっていましたが、修正案では無くなりました。しかし、懲戒などの行政処分の対象にはなりますから、萎縮効果は大きいといわざるを得ません。しかも、「国民投票運動」は選挙運動のような「特定の候補者や政党に得票を得させ、又は得させないことを目的とする運動」よりはるかに広い概念であり、実際には改憲について話すこと、行動することのすべてが「運動」と見なされかねません。「地位利用」か否かも権力の認定で、どうにでも濫用される危険性があります。高校の授業などで、「この憲法を守りましょう」なんて教えると、それだけで罪に問われることにもなりかねません。  改憲勢力は、この規定を使って、何千人もの公務員や教員を処分する必要はありません。然るべき対象者を選んで、数人でも「見せしめ」的に弾圧すれば、500万の人々の改憲反対運動を萎縮させることができるのです。

●国民投票法案のカラクリを多くの市民に知らせ改憲を阻もう

 世論調査では、国民投票法案を「今国会で成立させる必要はない」という人が47%です(1月13、14日実施のJNN世論調査)。また、安倍内閣に優先的に取り組んでほしいものとして「憲法改正」をあげている人はわずか7%(『読売』1月23日付)です。そして「九条の会」は全国で6000を突破し、埼玉でも400に達しています。  そういった多くの国民と連帯し、また国民投票法案のカラクリを多くの市民に知らせて、憲法改悪をゆるさない運動を広めていくことが緊急に求められています。

【注1】最低投票率

■ポルトガルでは、人工妊娠中絶をめぐって国民投票があり、そこでは有権者の60%が賛成したものの、投票率が5割を割ったため、投票は成立しませんでした。
■06年3月、米空母艦載機受け入れの是非を問う山口・岩国市の住民投票も、投票率50%が成立要件でした。

【注2】

■05年衆議院選挙における各党のテレビCM支出(東京キー局のみの金額)
自民党 2.6億円
公明党 2.0億円
民主党 3.0億円
共産党 1600万円
■コラムニストの天野祐吉さんの指摘(06年5月22日『朝日新聞』コラム欄「憲法とCM」より)
 「与党案(民主党案も同じ―引用者注)を見る限り、憲法改定について国民投票が行われるときには、改憲に賛成する側も反対する側も、一定期間、CMはだれでも自由にやっていいことになっている。(途中略)ほんとうにそれでいいのかと、憲法改定への賛否以前に、ぼくは思ってしまう。お金をたくさん用意できる側が圧倒的に有利になるに決まっているからだ。CMの量の比が1対2ぐらいなら、まだ表現の優劣がモノを言う。が、1対5とか1対10なんてことになったら、これはもう勝負にならない。じゃんじゃん大量に流せば、表現の優劣を超えて、確実にマインドコントロールの作用が働き始めることになるだろう。(途中略)憲法はビールや化粧品を売るのとはワケが違う。『だれでも』『自由に』というと聞こえはいいが、憲法改定のような大問題については、意見CMが公平に行われるように、きちんとしたワクが必要だ」