シンポジウム
「保護者・地域に開かれた学校づくり」
県立草加東高等学校
6月30日に草加東高校において、「保護者・地域に開かれた学校づくり」の職員研修会が行われました。パネラーとして、浦野東洋一さん(帝京大学教授)、勝野正章さん(東京大学助教授)、今井洋さん(鶴ヶ島高校教諭)が発言し、それぞれの切り口から「開かれた学校づくり」について論じられました。
○生徒が元気になった!
今井洋さん 鶴ヶ島高校教諭
私は鶴ヶ島高校へ4年前に異動してきたんですが、生徒指導上で困難を抱える学校でした。そんな中で、なんとかしなくちゃと考える教員も少なくありませんでした。しかし教員の頑張りだけではなんともなりません。そこで鶴ヶ島市の教育長と懇談をする機会ができ、市内で唯一の高校をなくさずになんとかならないか、ということで意見交換を継続的にすることになりました。その中から、鶴ヶ島高校創造委員会を立ち上げ、昨年5月にシンポジウムを開催しました。そこでは「鶴ヶ島高校に来てよかったと言う生徒がいる」とか「中学校時代、不登校で暴力的だった息子が鶴ヶ島高校に入学して変った」など、学校での姿とは違った生徒の一面が地域の人や保護者から語られたんです。そこに参加していた教員は、非常に励まされました。また文化祭を新聞がとりあげてくれたり、教育委員会などが、文化祭がありますよ、と地元の人に呼びかけてくれたりして参加者が前年の倍以上に増えたんです。生徒は非常に喜び元気になりました。こうしたとりくみを通じて、鶴高では市内から来る生徒が増えてきました。
○結果でなく、過程での「対話」が大切
勝野正章さん 東京大学助教授
全国的に学校自己評価がスタートしています。そんな中で学校自己評価が各学校でどんなふうに受けとめられているか。一つは学校現場は非常に忙しいですから「大変になる」という思いが強い。それから「今まで学校評価はまったくやってこなかったわけではなく、総括だとか反省だとかはやってきたことだ」という意識がある。しかしせっかく総括や反省をやってもそれが次年度からの教育活動をよくすることに繋がってこなかったという批判があります。またこれまでの総括や反省が学校の中、教職員だけの閉じられた中でやってきているということ。今学校には様々な問題がありますが、それが学校だけ先生たちだけの力で解決しようとしてもうまくいかない。それで「開かれた学校づくり」や保護者や地域の人たちと一緒に学校をつくるんだというのが今出てきているんですね。
埼玉県教委が平成15年3月に出した「学校評価システム調査検討に関する報告」がありますけれども、その中に「学校自己評価の目的」として「教職員間をむすび、学校と保護者や地域をつなぐ『コミュニケーションツール』」という表現があるんです。これは学校評価のあり方を非常にいい方向で導いてくれる考え方だと思います。例えば、アンケートを一つのきっかけにして授業をどういうふうにいいものにしていくのかは“対話”というコミニュケーションから授業改善が生まれるのだと思うし、またこういった学校評価をきっかけとして教職員間のコミニュケーションも図れるのではないかと思うんです。先生方どうし同じ教科であっても「どうして自分たちは国語を教えるのか」などについて議論するという機会はなかなか見つけにくいし、時間や余裕がない。分掌や委員会、学年、教科などで学校自己評価の表を作成して、それを練るかたちで全体の学校評価にするところが多いと思いますが、結果にあまりこだわるのではなく、その過程で授業論や子ども論・教科論というのを議論するきっかけにすることが大切だと思います。
○子育てには「4分の1ずつの責任」がある
浦野東洋一さん 帝京大学教授
子どもがよりよく育つことについては、親・生徒・教師・地域の「4分の1ずつの責任」があると私は思っています。「学校を開く」ということは「保護者や地域の人々の積極的な参加や協力を求めていくこと」、これは私が言っているんではなくて中央教育審議会の答申(2003年3月20日)がいっていることです。
教育基本法が学校というものを、公の性質を持つものと規定しています(第6条)。公というのは公園の公ですよね。だからみんなのもの。当然みんなでつくっていくものとなります。それは数十年前に当時の文部省(※資料)もいっていることです。
四者協議会とかは大変だという思いが出やすい。ですが私がしゃべるよりも現物を見た方がわかると思いますが、一度見たことのある人は「たいしたことないなあ」という感想を持ちます。「生徒会が活発じゃないとダメなんじゃないかと思っていたが、たいしたことないからすぐにできそう」というふうに思う。だからまず見てみるというのが大事だと思います。
子どもを中心に据えるということが徹底的に大事です。生徒を前に話しをしますと、発想の回路が変って、提案型・発展型の議論になっていくんです。ある教師は、生徒から授業について「略字は読めないからやめてください」と言われたそうで、その先生は自分ではうすうす気がついていたことを生徒から率直に言われ、本気になって変えようと思ったということです。
(※資料)
文部省学校教育局「新制中学校・新制高等学校 望ましい運営の指針」1949(昭和24) 年4月刊
「新制中学校または新制高等学校に関係する教育者と一般の人とは、その学校の教育 方針を、相当期間にわたって研究した上で、これをたてなければならない。これをたてるに は、校長も教師も生徒もその土地の人々もこれに参加することが必要である」(8頁)
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