障教部NEWS2003年6月号
すべての子どもたちに豊かな教育を<その1>
〜国の「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」と県の特別支援教育振興協議会の開催についての見解〜

2003.6.19 埼玉県高等学校教職員組合 障害児教育部

 3月28日、文科省の特別支援教育調査研究協力者会議は「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」を発表しました。今後、国はこの方向にもとづき学校教育法・教育免許法や義務教育標準法などの「改定」をすすめ、遅くとも2010年までに障害児教育をめぐる新制度を完成させるといいます。
 この方向の最大の問題点は、「近年の国・地方自冶体の厳しい財政事情等を鑑みれば、人的・物的資源の量的な拡充を単純に図るという考え方は現実的でない」という考えで新制度を提言していることです。もちろんLDやADHD、高機能自閉症の子どもへの教育的な対応や地域の総合的な支援体制をあげている積極的な側面もありますが、あらたな人的・物的支援(つまりお金をかけず)なしでそれらの見直しで行うのであれば、これまで私たちが築き上げてきた「権利としての障害児教育」のリストラにつながることに危惧を覚えないわけにはいきません。
 報告では、@特殊教育の基盤整備は完了した点、ALD等の子どもへの教育的な対応をあらたに提言したにもかかわらず、教育条件の整備は行わず、既存の特殊教育資源を最大限に活用するとした点、B固定式障害児学級と通級指導教室を廃止し、特別支援教室を置くとした点(障害児学級に在籍した子は通常学級籍となり、薄められ値切られた教育を受けることになる)、C盲・ろう・養護学校から特別支援学校にかわり、人的物的条件整備のないまま地域の特別支援教育センター的役割を担わされる点など、多くの問題点が述べられています。
 また、埼玉県では知事の「二重学籍発言」を受けて、特別支援教育振興協議会(特振協)が5月15日からはじまりました。検討事項は「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるか」として、@共に育ち共に学ぶための新たな教育システムの構築についてA後期中等教育における一人ひとりのニーズに応じた専門教育の充実についてとなっています。
 国の動向とあわせて埼玉の場合、知事発言の影響を受けて学籍問題を中心に「どの子も普通学級へ」などの運動が急テンポで進められている点に大きな特徴があります。

<特振協のテンポ>

  5月  第1回特振協
  6月   小委員会
  7月  第2回特振協
  8月   小委員会
      第3回特振協⇒中間報告
  9月  県民への「パブリックコメント」
 10月  小委員会
    第4回特振協⇒最終報告
 ※ その後、新制度の4月実施に向け、予算が動き出します。
 ◎ 会議はすべて公開で、傍聴できます。(特別支援教育課のホームページを参照)
  ⇒PTAにも呼びかけて、できるだけ傍聴にいきましょう!

<特振協の問題点>

(1)メンバーの選出について

 これまでと比べて学校関係者が大幅に削られており(埼教組と特殊学級設置校長会なども入っていません)、障害児教育について理解している方が少ない。小委員会の議論を見ても、障害児教育の実態をしっていての意見がほとんどないという状況になっています。

(2)協議の期間について

 これまで埼玉の障害児教育の方向性  を決める特振協は最低でも二年間かけてていねいな論議を積み重ねてきました。それが今回わずか半年で結論をだすということでひじょうに拙速で乱暴な進め方になっています。

(3)議論の方向について

 LDやADHD、高機能自閉症の子どもたちは、国の調査を見ても全児童の6%が通常学級で学んでいます(埼玉では約36000人)。今回の特振協ではLDやADHDなどの子どもの施策が全くなく、学籍動向に問題が矮小化されている点などがあげられます。
 障害児教育において何よりも大切なのは、学籍の動向や「理念」の優先でなく、一人ひとりの障害児が、その発達と障害、特別な教育的ニーズに応じて学習権が保障されることが最優先に検討されなければなりません。障害児教育及び通常の教育をとりまく現状の問題をそのままにして、障害児を通常の学級に無原則に在籍させることは、障害児への重大な人権侵害であると同時に、「教育のスリム化」「市場原理」「自己責任」を押しつけるものであり、教育の公的責任の放棄につながるものです。
 『すべての子どもたちのいのちと瞳輝く教育を』めざして、これまで父母・教職員・行政が力をあわせて、障害児教育を前進させてきました。障害をもつ子どもたちの実態は多様です。どの子も、学び成長する権利、学校生活のあらゆる活動に主人公として参加する権利をもっています。養護学校の教室不足・給食の民間委託・寄居養護学校の存続をはじめ、今なお障害児の教育は多くの課題を残しています。一人ひとりの子どもたちを大切にする教育の実現のためには、障害児学校・障害児学級・通級指導教室や通常学級など、あらゆる「場」における教育条件を整備・充実し全体としてシステム化することが不可欠です。財政難を理由に教育を後退させることがあってはなりません。
 今後、障害児教育の関係者一同が集い、このような危険な動きを学習し、私たちの願いを束ね、障害児教育の豊かな発展のために力をあわせて運動をすすめていくことが緊急に求められます。